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大阪地方裁判所 昭和53年(レ)115号 判決

控訴人 関今朝吉

被控訴人 株式会社玉置組

右代表者代表取締役 玉置進

被控訴人 鈴木節子

右両名訴訟代理人弁護士 山本淳夫

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人株式会社玉置組は、控訴人に対し、別紙目録記載の土地につき持分一一分の五の所有権一部移転登記手続をせよ。

被控訴人鈴木節子は、控訴人に対し、別紙目録記載の土地の持分一一分の五につき大津地方法務局八幡出張所昭和四六年九月二〇日受付第一〇、一二五号所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟の総費用は被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  控訴人

1  主文第一ないし第三項同旨

2  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  訴訟の総費用は控訴人の負担とする。

三  なお、控訴人は、当初別紙目録記載の土地の持分二分の一について、被控訴人株式会社玉置組に対し所有権一部移転登記手続、被控訴人鈴木節子に対し大津地方法務局八幡出張所昭和四六年九月二〇日受付第一〇、一二五号所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続をそれぞれ求めていた。しかるに、差戻前の控訴審において「被控訴人株式会社玉置組は、控訴人に対し、別紙目録記載の土地につき持分一一分の五の所有権一部移転登記手続をせよ。被控訴人鈴木節子は、控訴人に対し、別紙目録記載の土地の持分一一分の五につき大津地方法務局八幡出張所昭和四六年九月二〇日受付第一〇、一二五号所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続をせよ。控訴人のその余の請求を棄却する。」との判決がなされ、この判決に対し被控訴人らのみが上告し、その上告審において「原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し、右部分につき本件を大阪地方裁判所に差し戻す。」との判決がなされた。したがって、被控訴人らの右勝訴部分については差戻前の控訴審判決が存するので、差戻後の控訴審(当審)における審判の対象とならない結果、控訴人の申立のうち審判の対象となるものは一記載のとおりとなる。

第二控訴人の請求の原因

一  控訴人は、昭和四五年二月一六日大裕興産株式会社(以下、大裕興産という)からその所有にかかる別紙目録記載の土地(以下、本件土地という。本件土地は公簿上の面積が四、六六二m2=一、四一〇・二五坪あるが、実測面積が八、八一五m2=約二、六六六坪である。なお、登記簿上は訴外白石弥太郎(以下、白石という)の所有名義になっていた。)の二分の一を、実測面積により代金五〇〇万円で買受けたが、本件土地の地積更正が未了であったので、分筆登記手続をすることなく、やむなく同月二四日白石から本件土地につき持分二分の一の所有権一部移転登記(以下、本件所有権一部移転登記という)を経由した。

二  大裕興産は、昭和四五年五月末日被控訴人株式会社玉置組(以下、被控訴人玉置組という)に対し、本件土地の残りの二分の一を実測で一、二〇〇坪(三、九六六m2)として売渡し、同年八月二二日白石から被控訴人玉置組に対し本件土地の残りの持分二分の一の所有権移転請求権仮登記を了した。

三  ところが、大裕興産の従業員である白石は、被控訴人玉置組と意思を通じて、控訴人より他目的のために預っていた権利証、登記用白紙委任状および印鑑証明書を流用して、昭和四五年九月二八日控訴人の本件所有権一部移転登記を抹消したうえ、同年一一月一四日被控訴人玉置組に対し本件土地全部について所有権移転登記を了した。

なお、控訴人は原審において、右登記抹消は控訴人と白石との合意に基づくものである旨主張したが、これは錯誤によるものであるから撤回する。

四  被控訴人玉置組は、昭和四六年九月二〇日被控訴人鈴木節子(以下、被控訴人鈴木という)に対し、本件土地全部について大津地方法務局八幡出張所同日受付第一〇、一二五号所有権移転請求権仮登記(以下、本件仮登記という)をなした。

五  しかしながら、前叙のとおり、少なくとも本件土地所有権の持分二分の一は控訴人がこれを有するものであり、被控訴人玉置組は右持分二分の一について本来その権利を有しておらず、したがって被控訴人鈴木もまた右持分二分の一について所有権移転請求権を有していない。

六  よって、控訴人は、被控訴人玉置組に対し本件土地の持分二分の一の所有権一部移転登記手続を、被控訴人鈴木に対し本件土地の持分二分の一について本件仮登記の抹消登記手続を求める。

第三被控訴人らの答弁

一  請求の原因一のうち、昭和四五年二月二四日白石から控訴人に対し本件所有権一部移転登記がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

二  同二のうち、昭和四五年八月二二日白石から被控訴人玉置組に対し本件土地の残りの持分二分の一の所有権移転請求権仮登記がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  同三のうち、昭和四五年九月二八日本件所有権一部移転登記が抹消され、同年一一月一四日白石から被控訴人玉置組に対し本件土地全部の所有権移転登記がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

なお、控訴人は、原審において、右登記抹消は白石と控訴人との合意に基づくものである旨を自白しているので、被控訴人らはこの先行自白を援用する。

四  同四の事実は認める。

五  同五は争う。

第四被控訴人らの抗弁

一  本件土地は、野尻利博(以下、野尻という)が前所有者上西衛(以下、上西という)から買受け、白石の名義で所有権移転登記を経由していたものであるところ、被控訴人玉置組は、野尻より本件土地全部を最低一、二〇〇坪(三、九六六m2)あるということで代金一、二〇〇万円で買受け、昭和四五年一一月一四日前記所有権移転登記を経由した。

仮に、控訴人の主張するような公簿面積を上回る余分の土地(いわゆる出目)が本件土地にあるとしても、被控訴人玉置組は、昭和四六年二月頃その所有者である野尻からこれを四六八万円で買受けた。

二  被控訴人鈴木は、被控訴人玉置組が本件土地全部の所有権を有すると信じ、昭和四六年九月一三日被控訴人玉置組との間で本件土地全部につき売買予約をして内金三〇〇万円を支払い、本件仮登記を受けた。

三  したがって、被控訴人らは、本件土地について登記を有する第三者に該当し、仮に控訴人が本件土地所有権の持分二分の一を有していたとしても、控訴人は、これを被控訴人らに対抗できない。

第五控訴人の答弁

被控訴人玉置組は、本件土地所有権をその二分の一の持分に関するかぎりこれを有していないのであるから、本件は登記の対抗力の問題ではない。

第六証拠関係《省略》

理由

一  本件土地に関し、昭和四五年二月二四日白石から控訴人に対し本件所有権一部移転登記がなされたこと、同年八月二二日白石から被控訴人玉置組に対し残りの持分二分の一の所有権移転請求権仮登記がなされたこと、同年九月二八日本件所有権一部移転登記が抹消されたこと、同年一一月一四日白石から被控訴人玉置組に対し本件土地全部の所有権移転登記がなされたこと、昭和四六年九月二〇日被控訴人玉置組から被控訴人鈴木に対し本件土地全部につき本件仮登記がなされたことについては各当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、

(1)  本件土地は、もと上西が所有していたものであるが、昭和四四年暮頃大裕興産においてこれを買受け、大裕興産は、その頃野尻との間で本件土地と同所一三六二番の五の土地と合わせてこれを代金二、七〇〇万円で野尻に売渡す旨の売買契約を締結し、野尻に対し同所一三六二番の五の土地の所有権移転登記をなしたが、右代金の一部について支払がなされていなかったので、本件土地については野尻への所有権移転登記手続をせずに上西の所有名義のままとしていた。

(2)  その後大裕興産の社長大賀勝喜(以下、大賀という)は、本件土地の範囲には野尻に対し指示した場所(約一、二〇〇坪)のほかに所謂出目としてその北東側に接している約一、〇〇〇坪の土地も含まれていると考えるようになり、上西に対する本件土地代金の支払期限が迫っていたこともあって、右出目部分を他に売却してこれを換金するよう同社の従業員である白石に命じた。

(3)  白石は、大賀の命を受け右出目部分を売却すべく、白石の岳父である控訴人を現地へ案内したものの、現実にその出目部分がどの範囲であるのかよくわからないまま、控訴人に対して本件土地全体を指示したうえ、昭和四五年二月四日本件土地のうち一、〇〇〇坪を代金五〇〇万円で売渡し、大裕興産は、同月二五日までに控訴人から代金全部の支払を受けた。

(4)  大賀は、本件土地の地積更正をし、控訴人買受部分を特定するまでの措置として、昭和四五年二月一〇日上西名義から白石名義へ本件土地の所有権移転登記手続をなしたうえ、さらに同年同月二四日白石名義から控訴人へ本件所有権一部移転登記手続をなした。

(5)  大裕興産は、昭和四五年五月末野尻の手を経て被控訴人玉置組に対し本件土地(公簿上の面積四、六六二m2=約一、四〇〇坪)のうち公簿上の面積一、〇〇〇坪分、実測面積一、二〇〇坪(かつて大裕興産が野尻に対し指示した本件土地の範囲)を代金一、二〇〇万円で売渡す旨の契約を締結し、同年八月二二日白石名義から被控訴人玉置組へ本件土地の残りの持分二分の一の所有権移転請求権仮登記手続をなした。そして、右一、二〇〇坪については、本件土地の地積更正および分筆登記手続後に被控訴人玉置組への所有権移転登記手続がなされることになっていた。

(6)  大裕興産は、本件土地の地積更正および分筆登記手続をすべく、昭和四五年三月一一日滋賀県八日市土木事務所へ白石名義で官民境界確定現地調査の申請をなし、その結果同年六月二日現地調査が行なわれ、また土地家屋調査士田中義博(以下、田中という)にその手続をするよう依頼していたが、右地積更正および分筆登記手続をするのには便宜上白石名義に一本化した方が都合がよいので、控訴人および被控訴人玉置組の同意のもとに同年九月二八日控訴人の本件所有権一部移転登記および被控訴人玉置組の前記仮登記が抹消された。

(7)  被控訴人玉置組は、前記土地代金を大林組から借入れ、大林組に対し本件土地をその担保として提供する必要から、昭和四五年一一月一四日控訴人に無断で本件土地全部につき白石名義から被控訴人玉置組名義への所有権移転登記手続を大裕興産より受けたが、被控訴人玉置組が買受けたのは実測一、二〇〇坪であったので、被控訴人玉置組において地積更正および分筆登記手続をしたうえその余の土地部分を大裕興産へ返還することとなっていた。

(8)  大裕興産は、昭和四五年末頃から被控訴人玉置組に対し、本件土地の地積更正および分筆登記手続をするよう求め、被控訴人玉置組は、これに応じて、右手続に必要な書類に被控訴人玉置組の記名押印をして田中に交付し、同人に右手続を委任したが、結局本件土地周辺の地主の了解がえられなかったため、右手続はできなかった。

(9)  被控訴人鈴木は、昭和四六年九月一三日友人の町田秀宇の世話で被控訴人玉置組との間で本件土地の売買予約を締結したが、町田は、右売買予約締結に先立つ同年七、八月頃白石や野尻とも面会し、白石名義から被控訴人玉置組名義へ本件土地の所有権移転登記がなされた前叙の経緯を聞き知っていた。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

二  前記一の事実、就中(2)ないし(8)の事実によって、大裕興産と控訴人との間でなされた本件土地の一部の売買契約およびこれによって控訴人が取得した権利についてみるに、本件土地の範囲はかならずしも明確であるわけではなく、また右売買契約締結当時、大裕興産が控訴人に対し売渡した本件土地のうちの一、〇〇〇坪の範囲が特定されていたわけでもなく、結局登記上で控訴人に対し本件土地所有権の持分二分の一を移転するという形式をとらざるをえなかったということからすれば、右契約締結時点での契約の目的はあくまでも本件土地所有権の持分二分の一そのものであったとみるべきであり、ただ後日大裕興産および控訴人が考えているような本件土地の地積更正がなされ、その一部一、〇〇〇坪の分筆登記がなされたときに、右持分二分の一を右一、〇〇〇坪に変更し、本件所有権一部移転登記にかえて改めて控訴人に対し右一、〇〇〇坪の所有権移転登記手続をなすという趣旨の売買契約であったとみるのが相当である。

したがって、控訴人の本件所有権一部移転登記は実体に沿った有効な登記であったというべきである。

そして、右登記は、現在抹消されてはいるが、本件土地の地積更正および分筆登記手続のため控訴人および被控訴人玉置組を含めた関係者の合意のもとに抹消されたに過ぎないから、本件土地の地積更正および分筆登記手続が不能に帰した以上、控訴人の有する本件土地所有権の持分二分の一は依然として被控訴人玉置組に対抗しうるものである。

三  そうすると、被控訴人玉置組が本件土地に関して取得した権利はその所有権の残りの持分二分の一を超え得ないものであり、前記一の事実、就中(5)ないし(8)の事実によれば、被控訴人玉置組において現在本件土地全部の所有権移転登記を経由しているものの、これもまた本件土地の地積更正および分筆登記手続がなされることを前提として大裕興産と被控訴人玉置組との合意のもとに、控訴人には無断でなされた登記であって実体を反映したものではないから、控訴人の前記持分二分の一の所有権取得登記は回復されるべきもので、被控訴人玉置組には、登記を権利の実体関係に符合させるため、控訴人に対し本件土地の持分二分の一の所有権一部移転登記手続をなすべき義務がある。

四  ところで、被控訴人玉置組が本件土地に関して取得した権利はその所有権の残りの持分二分の一を超え得ないものであることは前叙のとおりであるから、本来なら被控訴人鈴木が被控訴人玉置組より取得できる本件土地に関する権利は右の範囲にとどまるべきところ、被控訴人鈴木は、被控訴人玉置組が本件土地全部の所有者であると信じ、昭和四六年九月一三日被控訴人玉置組との間で本件土地全部について売買予約を締結し、内金三〇〇万円を支払い、被控訴人玉置組より本件仮登記を受けた旨主張するので、この点につき判断する。

前記一の認定事実によれば、控訴人の本件所有権一部移転登記が控訴人の同意のもとに抹消されたことは、これを第三者からみるときは、控訴人においてその持分二分の一を大裕興産に返還する意思がないのに、大裕興産と通謀して、返還する旨の虚偽の意思表示をしたのに等しいとも解せられるのであるから、控訴人としては、民法九四条二項の類推適用により、右返還をしていないことをもって、善意の第三者に対抗することができないものといわなければならない。ところで、大裕興産からの買主である被控訴人玉置組が右抹消の趣旨(地積更正および分筆登記手続をするための便宜的手段としてなしたもので、真実二分の一の持分を移転返還する意思ではないこと)を知っていたことは前記一の認定事実に照し明らかであるから、同被控訴人が右にいう「善意」の第三者ではないことはいうまでもないけれども、被控訴人玉置組からの売買予約者(一種の転得者)である被控訴人鈴木も右法条にいう「第三者」にはあたるものと解すべきである(最判昭和四五年七月二四日、民集二四巻七号一一一六頁参照)から、被控訴人鈴木にして善意であるかぎり、同法条によって保護されるべき筋合いである。そして、被控訴人鈴木の前記主張もひっきょう右保護を求めるにあると解される。しかし、これを本件についてみると、前記一で認定した(9)の事実によれば、被控訴人鈴木は、右抹消の趣旨を感知していなかったとも断定できないものがあるから、結局、同法条にいう「善意」者であることの証明がないことに帰着する。結局、被控訴人鈴木の右主張は採用の限りでない。

したがって、被控訴人鈴木の本件仮登記は、持分二分の一については無効であるから、被控訴人鈴木は控訴人に対し、本件土地の所有権持分二分の一について本件仮登記の抹消登記手続をする義務がある。

五  以上の次第で、控訴人の請求はいずれも正当である。もっとも差戻前の控訴審における判決のうち被控訴人ら勝訴部分については、差戻後の当審での審判の対象になっていないことは前叙のとおりであるから、控訴人の請求の認容は主文第二、三項の限度にとどめなければならない。よって、控訴人の請求を全部棄却した原判決を主文第二、三項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条、九三条一項本文、九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 井深泰夫 市川正巳)

〈以下省略〉

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